PL7デイズ。

西ドイツの精霊さん系(または小悪魔系)ドリブラー、ピエール・リトバルスキーについて無秩序に書き散らかす「備忘録」。

美文:「ドイツ・フットボールの輝けるアノマリー」②

前回にひきつづき、こちらの英文記事の話題です。

筆者のニックさんは本当に「西ドイツの、精霊のような7番」のファンなのだな、と実感できるような表現が随所に出てきて、同じファンなら首が疲れるほど頷きながら読める記事です。もうね、リトバルスキーが好きな人全員に読んでもらいたいよ。(英文だけど...)

例えば、1985年のブンデスリーガ年間最優秀ゴール(対ヴェルダー・ブレーメン戦)の描写。

With defender and goalkeeper now wrestling him for possession, he finds the presence of mind to scoop the ball through a gap not even light could pierce and into the net. It’s a goal so brimming with skill, daring and indefatigable bloody-mindedness, that even the beaten Burdenski appears mildly impressed.

(ほぼ意訳)DFとGKがボールを取ろうと格闘しているとき、彼は光さえ貫通できないような隙間から左足でボールを掬ってゴールネットに蹴り入れる冷静沈着さを見出していた。それは余りにも熟達した技巧と、不敵かつ不撓の暴力性とに溢れたゴールだった。打ち負かされたブルデンスキーですら穏やかに感銘を受けているようだった。

巧いだけではない、驚異的な粘り強さで勝ち取った得点。ドリブル突破(これが既に彼らしい)からのシュートが一度は阻止されるも、再び突破を試みGKと交錯、その倒された姿勢からシュートを蹴り込む冷静さと熱量とに圧倒される。そのシーンを素敵に表現するとこうなるのだろうよ。
あとは他にも、

It was a moment marked by his customary celebration – body tilted back while punching the air with both hands, an infectious smile stretched across his face, bereft of any hint of cynicism or arrogance. Unlike so many footballers – even some of the greats – he was a man who appeared to be genuinely thrilled to be playing the game, every goal a source of pure delight.

(ほぼ意訳)それは彼の恒例のセレブレーションの瞬間だった。身体の重心が後方に傾き、両手の拳が空中に勢いよく何度も突き上げられ、見る人まで笑顔にしてしまう伝染性の笑みが満面に広がる。そこにはシニシズムや傲慢さを示唆するものは微塵も無かった。多くのフットボーラー---その一部は偉人ですらあるが---とは違って、彼は試合に出てプレーすることに対して真に全身がぞくぞくするような喜びを見出しているようであり、すべてのゴールが純粋な歓喜の源泉なのであった。

このあたり、ファンならニヤニヤしてしまう箇所だと思う。そして、この壮大な記事の最後のサマリー的な部分なんかもう、上手く日本語にできない自分が本当に嫌になったけど、まあ、そこは言語が苦手…ってことで諦める。

A diminutive figure who through a combination of impish brilliance and fearlessness, lit up even the cagiest encounters with his determination to terrorise the game’s more rugged defenders. The epitome of grace over power and joy over cynicism.

(ほぼ意訳)悪戯な煌めきと大胆さで、頑強なDFたちを恐怖の底に陥れようとする狡猾な意図を秘めた遭遇さえも光り輝かせる小さな巨匠。力を超越した天の恩寵たる才能の、そしてシニシズムを超越した喜びの縮図。

impish brillianceなんて、ピエール・リトバルスキーという悪魔的ドリブラーのためにある言葉としか...。だいたい、こんな格調高い賛辞、ガチのファンじゃないと思いつかないなぁと思うわけですよ。

この壮大な讃歌は、ニックさんの1982年の記憶と、1974年、当時14歳のリティさんの時空を超えたセンチメンタリズムが重なり合うところで終わりを迎える。
「1974年のW杯でボールボーイを務めた頃について尋ねられたとき、彼は母国の究極的な勝利ではなくトーナメントの最も魅力的なチームについて思いを巡らせた。『ぼくはオランダを見ていたかったんだ。大会を通してずっと息を呑むようなフットボールをしていたから』。私自身の最初のW杯の記憶、そして西ドイツの、まるで精霊のような7番に思いを馳せるとき、同じ感傷がオーバーラップしてくるのである。」

このまま小一時間ほど感傷に浸っていたい衝動に駆られるけど、お盆だからって休めないんだよなw とりあえず例の「年間最優秀ゴール in 1985」の動画を貼っておきます。

 
動画は、髪型がイキナリ軍人さんみたいになった頃の映像でスタート。simply incredibleというナレーションがすべて。上手いだけでなく、果敢で冷静で何より粘り強い。
(襟足伸ばしたりハイライト入れたり髪型に気を遣ってた人が、ほぼ丸刈りになって現れたときの周囲の反応ってどんな感じだったのだろう...。自分なら腰抜かすと思う。で、誰にやられたの?って訊く)

【おまけ:ヴァイスヴァイラー監督のこと。】

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出典:Imago-images

向かって右側の貫禄のある人が、1.FCケルンの一時代を築いた伝説の監督、へネス・ヴァイスヴァイラー氏。この英文の記事の中でも、彼の炯眼が、垂直にピッチを往復するプレーが愛弟子のクリエイティブな可能性を制限すると見抜き、彼がウイングから自由に離脱してフィールドすべての領域から攻撃に関わっていくよう背中を押した、という話が出てくる。

「お前がボールを持つんだ、ピエール。ボールにダンスをさせてごらん。何か美しいことをしよう」
まだ18歳だった愛弟子を励ますヴァイスヴァイラー監督の言葉。「君は絶対にドイツ人じゃない、ブラジル人だ。フットボールのやり方で一目瞭然だ」という、フェリペ・スコラーリ監督の「ストリート仕込み」のスタイルを見抜いた台詞同様に、彼のフットボーラーとしての本質をいち早く捉えたものと言えるかも。